寄生バチ 1.寄生蜂について
2.怖い話
3.ミドリシジミ類の場合

1.寄生蜂について

 我が家の庭にレモンの木がありますが、この木には毎年アゲハアゲハの幼虫が沢山発生します。そのうちの幾つかが蛹になり、幾つかが蝶になり、巣立っていきますが、中には蛹のままで、羽化しないものもあります。よく見ると蛹に小さな穴があいていて、中が空洞になっています。これらは寄生バチに卵を体内に産み付けられたものであることが分かります。卵からかえった蜂の幼虫は、生きたアゲハの幼虫の体内を食い荒らし、やがて1人前の蜂になって飛び出して来るわけですが、アゲハの幼虫のほうは、なんか体の具合が悪いなあと思ってると死んでしまうという訳です。卵が産みつけられる時期が、アゲハの幼虫が、終齢幼虫に近いかどうかによって、幼虫から蜂の成虫が出てくるのか、蛹から出てくるのかが決まるようです。
 この話、よく考えてみると恐ろしい話ですね。人間でも、昔はよく寄生虫(回虫)の話が出てきましたが、これは人間の腸の中で栄養を盗むだけですから特に実害はありませんが、昆虫の寄生は、宿主(アゲハ)の体そのものを内側からバリバリ食べていくわけですからたまったものではありません。ただし、寄生者(ハチ)は腸や神経といった宿主の生存に直接関わる部分には全く手を付けないといいますから、すごいですね。
 人間で言えば、猫やネズミが死んだ人間からはい出てくるようなものですね。シリーズものの、あの映画「エイリアン」は昆虫の寄生からヒントを得たのでしょうか。

 この話で、不思議だなあと思うのは、生物の体というのは、内部に異質なもの(蛋白質)が侵入すると、自動的に防御の反応を起す仕掛けになっているはずです。我々のリンパ腺が腫れるのも、とげが刺さって膿が出るのも防御反応ですね。
 これは昆虫の世界でも同じはずです。なのに、何の排除作用も起こらないというのはどうしたことでしょう。どんなカラクリがあるのでしょうか、不思議ですね。宿主側が防御反応を起こさない何かを、寄生者側が分泌しているのでしょうか。この仕組みがはっきり分かると生物学上の大発見になるかも知れませんね。



2.怖い話

寄生バチの2齢幼虫 寄生蜂の中に、アゲハヒメバチというアゲハチョウにだけ寄生する蜂がいます。この蜂については怖い話があります。一つのアゲハの幼虫に卵が二つ以上産み付けられた場合、二匹以上だとみんな餓死してしまって具合が悪いわけです。そこで彼らはどうするかというと、最初に産み付けられた卵はすぐ一齢幼虫になって、一齢のままずっと頑張るそうです。そこでアゲハの幼虫が蛹になるときに、ホルモンを出すわけですが、これに反応して卵を産み付けられた時期に関係なく一斉に二齢幼虫になるそうです。二齢の幼虫だけはすごい化け物(図左)みたいで、全然食べないで、ひたすら蛹の体の中を歩き回り、自分と同じ幼虫がいないかどうか探し回り、出会ったとたんにこれを襲い、戦い傷ついたほうが死ぬというわけです。つまり、二齢だけは殺人のための幼虫に特化していて、最後に一匹だけになった時点で、それが三齢、四齢と育って成虫の蜂になって蛹から出て来るのだそうです。アゲハの蛹に小さな穴があいていて、中が空っぽなのは実はこのアゲハヒメバチに寄生され、命を失ったものなのです。我が家の庭のレモンの木にも、たくさんの亡がらがあります。
 自然界で蝶が死ぬ原因は、

@気温の急変や乾燥などの気候的なもの
A食物不足によるもの
などがありますが、
B可成り大きな死亡原因は、他の動物や昆虫に食べられる

というのが挙げられます。このような動物や昆虫を「天敵」(つまり、自然の敵)と呼びます。
 アゲハも何種類もの天敵を持っています。

@卵や小さな幼虫の時はアリや蜘蛛
A大きい幼虫になると、ハチや小鳥
B成虫になるとカマキリなどに食べられることがあります。

 その他、カビやバクテリアによる病気も天敵の一種かも知れません。彼らは一生を通じて、色々な寄生虫たちにねらわれ、親から生まれた卵から、二匹だけが最後まで育ったら、その種は増えも減りもしないというわけです。



3.ミドリシジミ類の場合

 まず、下の表を見てください。

ウラゴマダラシジミ  タマゴヤドリバチが高率で寄生。幼虫からコマユバチが外にでて、繭を作る。
チョウセンカシジミ  幼虫につく寄生蜂あり。
ウラキンシジミ      ヒメバチが前繭から出た例がある。コマユバチの寄生も多い。
ムモンアカシジミ   寄生蜂
アカシジミ        アカシジミヒメバチ。1蛹につき1個体が寄生コマユバチの寄生が目立つ。
ウラナミアカシジミ   蛹にはキアシブトコバチが寄生。
ミズイロオナガシジミ コマユバチ、ヤドリバエの寄生。
ウスイロオナガシジミ タマゴヤドリバチ。卵群全部が寄生されている場合が多く、寄生率は非常に高い。
オナガシジミ     タマゴヤドリバチ。
ウラクロシジミ     卵に寄生蜂、幼虫にはハエが寄生。
ダイセンシジミ     卵に寄生蜂。
ミドリシジミ      卵塊を作る場合は寄生率が極めて高い。
メスアカミドリシジミ  タマゴヤドリバチの寄生。
アイノミドリシジミ    タマゴヤドリバチの寄生。卵殻の横の穴はクモ、ダニ、カメムシなどの被害。
ヒサマツミドリシジミ  タマゴヤドリバチの寄生。日当たりの良い場所の卵は寄生率が高い。1卵のものより
まとめた産まれたものの方が寄生率は高い。
キリシマミドリシジミ   タマゴヤドリバチ。幼虫からは寄生バエ、蛹化後にヒメバチの羽化。
フジミドリシジミ     タマゴヤドリバチ
ウラジロミドリシジミ  タマゴヤドリバチが高率で寄生。幼虫はハエに寄生されることが多い。
クロミドリシジミ    タマゴヤドリバチ。幼虫はヒメバチや寄生バエに冒されることが多い。
ジョウザンミドリシジミ タマゴヤドリバチ。
オオミドリシジミ     卵から寄生蜂、幼虫にはコマユバチ、ヤドリバエの寄生。
ハヤシミドリシジミ   主にタマゴヤドリバチの寄生。
エゾミドリシジミ    幼虫に寄生バエ。
ヒロオビミドリシジミ  卵から寄生蜂、終齢幼虫からは寄生バエ。
原色日本昆虫生態図鑑(Vチョウ編)を改変

 上の表のように、多くのミドリシジミ類は卵や幼虫のときに、蜂やハエの寄生を受けます。したがって、沢山の卵を産む割には、その発生は十分抑えられています。
 多くの卵は、タマゴヤドリバチの寄生を受け、日当たりの良い場所の卵ほど寄生率が高く、また1卵より3〜5卵とまとまって産まれた方が寄生率が高く、さらに卵塊を作る場合の寄生率は100%に近くなる場合もあります。
 蛹になると、コマユバチの寄生が多く、幼虫ではヤドリバエなどの寄生バエに冒されることが多いようです。また、卵殻の横に穴があいている場合、多くはクモ、ダニ、カメムシなどの被害のようです。
 これらのミドリシジミ類を撮影する場合「よくぞ天敵からの難を逃れて生き延びたなぁ。これからも気をつけろよ!」と思わず叫んでしまいます。


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