コリオリの力(2)


円運動と加速度
図1(a)等速円運動でも加速度は生じる
ベクトルの合成
図1(b)微小量の取り扱い方

 図1.は物体Pが短い時間凾 の間に刄ニ だけ回転すると、速度の方も刄ニ だけ回転します。このとき、速度がVは変わりませんが、図1(b)のように、1点にV,Vを平行移動すれば、速度の変化は図のように凾u=V刄ニ で表されます。すなわち、凾uは円の中心に向きます。したがって、加速度α=凾u/凾 も円の中心へ向くわけです。
 物体Pの角速度をωとすれば、

 α=凾u/凾 =Vω凾/凾 =Vω

すなわち、

 α=Vω=rω2=V2/r

となります。

 ここで、「コリオリの力」のところで導いた、式を当てはめてみましょう。
 まず、緯度φにおける加速度はα=2Vωsinφでしたから、

 2Vωsinφ=V2/r

となります。したがって

 r=V/(2ωsinφ)

が導かれます。すなわち、緯度φにおける物体の速度がわかれば、コリオリの力という向心力を受ける物体の回転半径を求める式を導くことが出来たわけです。
 これを使って少し考えて見ましょう。

地球の自転の角速度は、1日に2πラジアン回転しますから、2πrad/(60sec/min×60m/h×24h)=7.27×10-5(rad/sec)です。したがって

 r=6.88×103V/sinφ・・・(1)


1.黒潮
 式(1)を用いて、日本近海を流れる黒潮について、その半径を計算してみましょう。
 黒潮の速度は、V=3から6km/h といわれており、黒潮の流れる緯度はほぼ30°ですから、MKS単位で計算すれば、次のようになります。

 r=6.88×103×0.833〜1.667/sin30°
  =1.146×104〜2.294×104km

 これより、半径は104km のオーダーになります。オーダーでいえば、このくらいのものでしょうか。


2.風呂の排水口の渦
 さて、よく話題に上る風呂の水を排水したときの渦はどちら回りか?などというクイズがありますが、はたして、クイズそのものが成り立つのでしょうか。このことの可能性について検討してみましょう。場所は東京とします。北半球では左回り、南半球では右回りといわれていますが、本当でしょうか。
 風呂の栓に吸いこまれる水の速さを20cm/sec としてみましょう。V=0.2m/sec ですから、

 r=6.88×103×0.2/sin35°
  =2.41×103 m

となります。渦の半径が2km とはスケールが違いますね。これでは風呂に発生する渦はコリオリの力とは関係がないようです。この場合は、排水口の栓を抜くときに、最初に水に与えた動きや、湯船や排水口の形などの影響のほうがずっと大きいようです。
 つまり、最初に右回りの力が加われば、右回りの渦が、左回りの力が加われば、左回りの渦ができるというわけです。しかも、渦ができたほうが渦ができないよりも流れがスムーズになるのです。というのも、排水時に出口の先にある空気の逃げ場がなくなるため、水の流れに渦ができて中心部から空気が自由に出入りできるほうが、スムーズに水が流れ出るからだと考えられます。


3.歩いている人に働くコリオリの力
 では、私たちが歩いている場合にコリオリの力は働くのでしょうか。場所は東京。人の歩く速さを 5km/h (5000m/3600sec=1.389m/sec)としましょう。この速さで歩く人の体重を 60kg として、働くコリオリの力を求めてみましょう。


F=2mVωsinφ
 =2×60×1.389×7.27×10-5×0.57
 =6.9×10-3kg
 =6.9g

 これは、100円玉(5g)1個と1円玉(1g)2個を足した重さに当たります。約体重の1/10,000の力を進行方向と直角右方向に受けます。普通の人にはとても感知できない力ですね。



4.豪速球投手
 今度は西武の松坂投手が甲子園で150km/h の剛速球を投げる場合を想定しましょう。甲子園はほぼ北緯35°。ピッチャーからホームベースまでは18.44m。地球の角速度を7.27×10-5rad/sec として、コリオリの力によって松阪投手の剛速球はどのくらいホームベースから逸れるかを計算してみましょう。
逸れる量は(コリオリの力(1)参照)、

Vt・ωsinφ・t =Vt2・ωsinφ
=150×103/3.6×103×[(18.44/(150×1000/3600)]2×7.27×10-5×sin(35°)
=3.34×10-4
=0.334mm

 すなわち、甲子園球場で松坂投手が投げた時速150kmの速球は、ホームベース上ではわずか0.3mm しか逸れないということになります。つまり、直球を投げて、コリオリの力の助けを借りて、シュートボールを投げようなんて考えても無駄であることが判ります。



 コリオリの力が自然界においては非常に重要な力であることがわかりましたが、それはスケールが大きく、動きがゆったりしている場合に限られ、風呂の排水、野球の速球、鳴門の渦潮(これはカルマン渦です)など動きのスケールの小さいものには適用できないということが判りましたね。

2004.3.13