夏至の暑さ 1.はじめに
2.1日の気温変化は
3.夏至と7月下旬から8月上旬
4.おわりに

1.はじめに

地球の四季
図1春分・夏至・秋分・冬至の時の太陽の位置

  蝶の撮影をやっていると、太陽の高度がもっとも高くなる夏至の頃(6月23日頃)よりも、7月下旬から8月上旬にかけての方がもっと暑いことを痛切に感じます。ちなみに、小暑が 7月 7日ごろ、大暑が 7月23日ごろですが、最も暑いのは 8月上旬ですね。
  冬でも、冬至の頃(12月22日頃)より1月下旬から2月上旬にかけてが最も寒いですね。小寒が 1月 5日頃、大寒が 1月20日ごろです。

 さて、「夏は暑く、冬は寒いのはどうしてなの?」と子どもたちに聞かれて、「夏は太陽が近くにあり、冬は太陽が遠くにあるからだよ」と答えている人はいませんか。これは、まずいですね。

  実は、地球は太陽を焦点のひとつとして楕円軌道を描いて公転しており、冬至の頃が太陽に最も近く(近日点とよばれ、太陽からおよそ1.47億km)、夏至では最も遠く(遠日点とよばれ、太陽から1.52億km)にいるということは、中学校の理科で習います(図1.)。つまり、太陽からの遠近は気温の高低にはほとんど関係ないということが分かります。

季節ごとの迎角
図2.迎角とは

  気温の高低の最も大きい支配要素は、太陽の迎角です(図2.)。つまり、太陽の高度が高い(仰角が大きい)ほど、単位面積あたりの地面が受ける太陽エネルギー量は大きくなり、地面は強く加熱されることになります(図3.)。
  「夏至の頃は夕方の7時半を過ぎてもまだ明るく、1日が長くて得をしたような、浮かれた気分になります。でも、太陽の高度が最も高くなるのは夏至だというのに、このころが一番暑くならないのは何故だろうか」というのがここで解明したい疑問点です。


2.1日の気温変化は?

  図3.は、太陽光線を受ける地球を表しており、赤道直下では暑く、北極では寒い理由がすぐ分かるように描いたポンチ絵です。この図はまた、1日の気温変化の説明にも用いることができます。
  すなわち、南中時(太陽が真南に来る時間)の地面の状態は図の@にあたり、午後から夕方にかけての地面の状態はAからBへと変化します。夕日が傾くにつれて太陽熱を受ける地面が広くなり、単位面積あたりに受ける太陽のエネルギー量が減少して、気温が余り上がらなくなるというわけです。


ガスストーブ

  これは、ちょうど同じ発熱量のストーブを狭い部屋(図3.の@の状態)に置くとすぐ暖かくなりますが、広い部屋(図3.のBの状態)に置いた場合にはなかなか温まらないのと同じ理由です。
  図3.を見ると、北極では太陽からの距離が赤道より長いので寒いのではないかと勘違いされそうですが、地球の半径(6378km)は、太陽からの距離(近日点で1.47億km)に比べれば塵(地球の半径/太陽からの距離=4/100000)のようなものですから、北極も南極も、太陽からは同じ距離と考えても差支えありません。
 「暑い」とか「寒い」というのは迎角に直接関係し、年中迎角が小さければ北極や南極のように寒いし、年中迎角が大きい赤道直下のようなところでは暑いというわけです。
 1日の迎角は、
・ 朝は   迎角小→影が長い→単位面積あたりの太陽エネルギー小さい→気温低い(Bの状態)
・ 昼は   迎角大→影が短い→単位面積あたりの太陽エネルギー大きい→気温高い(@の状態)
・ 夕方は  迎角小→影が長い→単位面積あたりの太陽エネルギー小さい→気温低い(Bの状態)
のように変動するのは体でも感じることが出来ますね。

太陽光線と地球
図3.太陽光線と地球

 
  以下では、まず1日の気温変化の解明から始めてみましょう。もっとも分かりやすい夏の場合を考えてみましょう。

太陽の高度は太陽が南中する正午頃に最も高くなりますが、気温は2時間ぐらい遅れて午後の2時頃が最高を記録します。
  この遅れの原因は、大気の気温が太陽光線によって直接加熱されているのではなく、太陽によってまず地面が加熱され、温度が上がった地表面から放出される熱によって間接的に大気が暖められていることに大きく関係しています。
 
  そこで、あまり気が進みませんが、物理の力を借りて少し考えてみましょう。しかし、あまり深入りはしないでさらっと流します。解析のモデルはできるだけ現実に近い仮定が必要ですが、これらをリストアップして三つにまとめておきます。


(1) 太陽から地表面に降りそそぐ単位時間当たりの熱エネルギーをQ(t)とします。ただし、

                 

  ここにTは周期で、ここでは1日とします。式の意味は、平均熱エネルギーを中心に、昼と夜の気温変動を解析しやすいように、サインカーブで近似しています。南中時に地面が受ける太陽エネルギー量は最大になりますが、太陽高度が低くなるにつれて単位面積あたりに受ける太陽エネルギー量は小さくなります。夕方に温度が下がるのはこのためです。

(2) 地表面を照らす太陽による熱エネルギーは、すべて地表面に吸収されて熱に変わるものと仮定します。

(3) 地表面から大気に逃げ出す熱量は外気温度 Tに比例するものとします。この仮定は温度に関する解析では、よく 利用されています。


  さて、これだけを準備して、式を誘導してみましょう。
  まず、時刻 t から t+Δt のΔt の微小な時間の間に、地表面の温度が T(t) から T(t+Δt) に変化したとします。すると、この間の大気の温度上昇は

 ΔT=T(t+Δt)−T(t)

で表わされます。
  次に、地面の熱容量(物体の温度を1℃だけ高くするのに必要な熱量のこと)を C とすると、この間に流れ込んだ熱量は CΔTになります。
  ここで
@太陽からもらった熱エネルギーは
     


A地表面から逃げ出した熱量は
     


  ただしkは比例定数です。

したがって、熱エネルギーの保存を表す式は

     (流れ込んだ熱エネルギー)=(もらった熱エネルギー)−(逃げ出したエネルギー)

より
                


したがって、ΔT(t)を代入し、両辺をΔtで割れば
             
          


Δt→0 とし、極限値を用いると、
        


  位相遅れの解を仮定して式に代入し、係数比較をすることによって解が得られます。途中の計算を省いて結果だけを示せば、大気の気温は以下のようになります。
         



この式と、前記した地表面に降り注ぐ太陽のエネルギーの式(下に再記)とを比較してみましょう。

         

南中と大気の温度  これより、時刻 t の項に着目すると、大気の気温が地表面に降り注ぐ太陽のエネルギーより時間的に t0 だけ遅れていることが分かります。
  左図は、このことを分かりやすいように描いた概念図です。遅れと描いてあるところが時間差 t0 にあたります。太陽エネルギーは南中時に最大になりますが、大気の温度は t0 だけ遅れてピークを迎えるわけです。  これが、「太陽の高度は太陽が南中する正午頃に最も高くなりますが、気温は2時間ぐらい遅れて午後の2時頃が最高を記録する」ということの数式による説明です。図では、マイナス部分がありますが、これは平均温度が加算されていないためです。
  地球上の諸現象は、海水や大気の熱容量、土地の熱伝導や熱容量などが複雑に絡んで、温度の上昇が熱の供給よりも一定時間遅れる現象です。
 
  いろいろな条件の中から、パラメターを絞って数式をたてて見ました。時間遅れが2時間というのは、熱容量 C や、比例定数 k の値が現段階では分かりませんので、計算することはできませんが、現状から C や k を類推することは可能です。しかし、モデルの荒さを考慮すれば、この試みもあまり意味がないかもしれません。これ以上深入りするのは止めにしましょう。
  ここで一つだけ補足しておきたいことがあります。それは、南に面した山の裾野では地面に対する迎角が赤道付近と同じところもあるはずです。「そこではなぜ熱帯のように暑くならないのでしょうか」と聞く人が必ずいます。答えは簡単です。すなわち「太陽から直接受けるエネルギーは確かに赤道と同じになりますが、狭い区域のことなので、せっかくもらったエネルギーもすぐ周りの暖かくない土地に分散してしまって周りの温度と変わらなくなるからです」という説明で納得してもらえるでしょう。

3.夏至と7月下旬から8月上旬

  さて、では本題に入りましょうといいたいところですが、この項目の答えはすでに2.でほとんど説明が終わっています。付け加えることがあるとすれば、北半球と南半球の温度差による熱の南北間の移動が加わるだけです。
  式は北半球の大気温度T(下つきのnは北)と南半球の大気温度T(下つきのsは南)を未知数とする連立微分方程式になりますが、2.と同じ方法で解の誘導が可能です。興味を持っている若い諸君は、ぜひ挑戦してみてください。

4.おわりに

  数式で解明するといっておきながら、竜頭蛇尾に終わってしまいました。まさに、看板倒れですが、実はこの問題、分からない物理定数や比例係数などが多いので非常に難しく、素人の私には歯が立ちませんでした。ご容赦を!雰囲気だけでもと思い挑戦してみました。
  自然界には「遅れ」という現象が数多く見られます。このサイトで取り上げたものだけでも、「太陽と気温の関係」、「昆虫の食物連鎖」、「潮の満ち干」などがあります。
  けれども、大気のない月面では、ジワジワ暑くなるということはなく、太陽に面している昼の部分は太陽の輻射熱で、摂氏100度近くまで上がり、太陽の隠れる夜にはマイナス100度まで下がってしまいます。
「遅れ」の問題は、物理現象(交流理論の力率の減少など)にもたびたび見られ、数式化して見ると面白い現象に出くわす場合が多いので、機会があればまた他の問題で挑戦してみたいと思っています。