相似則


1.はじめに
 皆さんはスウィフトのガリバー旅行記をご存知ですね。「小人の国」のリリパット国に流れ着き、そこでガリバーが経験した様々な話の中に、自分の食料のことが記されています。
 リリパット人は小さいので大男のガリバーにどれくらいの食事を与えなくてはならないか判りません。そこでガリバーの身長を測ったところ、自分達の身長の12倍もあることが判ります。そこで彼らは、食糧は体積に比例するから、12の三乗の1728倍の食糧を与えればよいことを割り出し、法律で定めたというのです。「彼らはなかなか頭がいい」とガリバーは感心します。
 もし、私達の12倍もある人間がいたとしたらどうでしょう。身長は12倍でも、面積は12×12=144倍、体重は12×12×12=1728倍にもなります。つまり、144倍になった足の面積で、1728倍になった体重を支えなければならないという結果になります。体重も144倍であれば、足にかかる力は普通の人間と同じで、足の骨が折れるということはありませんが、144の12倍(1728倍)ということは12倍に大きくなった一人の人間が、大きくなった残りの11人(自分も含めると12人)の体重を支えて歩かなければならないことになり、足の構造を変えないと、とても自分の体重を自分自身では支えられないということになります。
 この辺りから、「完全に幾何学的には相似であっても、問題があるんだな」ということに気が付くはずです。
 私たちは何らかの相似性を基にしないと自然を理解できないのではないでしょうか。というのも、自然科学というのは自然の中に何らかの法則性(相似性)を見つけることにあるからです。そこで相似則の中味をちょっと覗いてみましょう。

2.相似則
 相似則の考え方は古く、近代科学の礎をなした、かの有名な「プリンキピア」(Principia)の中に、既にニュートンが打ち出していますが、その後、フルード(Froude)が船体の造波抵抗について、レイノルズ(Reynolds)が河川の侵食についてモデルを適用しており、かなり古い歴史を持っています。
 以下では、元の形をPrototype(プロトタイプあるいは原型)、縮尺したり、拡大したりした模型をModel(モデルあるいは模型)と呼ぶことにします。
 相似則とは、模型の挙動が原型の挙動と相似になるために満足しなくてはならない条件を模型に要求する基準です。
 さて、以下ではたとえば面積をA(Area)で表わすとして、原型をAのようにサフックス(下付き文字)なしで表わし、模型はAnのように下付き文字nを付けて表わすことにします。
 模型が原型の何倍かということを表わすには、

   

 したがって、n>1であれば縮小模型であり、n<1であれば拡大模型になるというわけです。通常、模型実験というと縮小模型(縮尺模型)ですが、小さいものから大きいものを知ろうとする場合には、思考実験として相似則を使う場合があります。「なんだ、そんなことなら簡単だ」と思うかもしれませんが、実はこれが模型に対して非常に厳しい要求であることが判ります。これも式で書いてみましょう。
   



 この式は、面積のみの式ですが、模型は原型とすべての箇所で幾何学的に相似でなけれなならないことを意味します。これは模型に対する厳しい要求です。
 このように、相似則というと、単純に幾何学的に大きくすればよいと考えがちですが、相似をいう場合は相似則を適用する模型に含まれる全ての物理変数が原型と相似でなければなりません。したがって、相似比の数は対応する物理量の数だけあるわけです。なお、物理変数とは時間、速度、力、加速度、変形、圧力、応力などがあり、上の式でAの代わりにこれらの物理量が入ってくるわけです。これらを全て満足する模型を作るなどということは不可能に近くなります。
 さて、式(2)を書き直して見ましょう。

    


 となります。このi/Aj の比をパイナンバーと呼び、πで表わせば

   π=πn

 ここで、パイナンバーは同種の物理量の比ですから、無次元になります。いいかえれば、無次元の物理量は全てパイナンバーというわけです。

3.代表的なパイナンバー
 相似則は、規模が大きくて実物の大きさのもので実験が困難なものについては、模型を作成し、模型の挙動を実験・観測し、その結果を実物に外挿するわけですが、実際問題として模型に完全な相似を要求するのは困難です。そこで、2次的要因と考えられるものや、既に関係がわかっているものは除外するなどの工夫がなされます。判りやすい例を挙げれば、たとえば太平洋の波浪に表面張力は関与しませんから、これを除外するというような場合がこれにあたります。
 以下に主な、πナンバーを挙げておきましょう。

(1)重力と応力のパイナンバー
 模型から原型の応力を知りたいときに適用します。

  σ=σL2
  Fg =W 
 ここに、σは応力、Lは長さ、は重さです。
 


 したがって、
  


 同じ材料であればσ=σn ですから、重量と長さの関係は
  


 ところが、幾何学的相似からは
  


 ですから、この両式を満足させるにはL=Ln となって、模型が実物と同じになってしまいます。この場合、応力の相似則を優先する場合には、幾何学的相似を諦めて、応力-歪曲線に影響を与えないように十分小さいダミーウェイト(おもり)を取り付け、重さがL2に比例するように工夫する必要があります。

(2)フルード数
 支配的な物理法則は、慣性力と重力です。
 
  Fi=WL/(gt2
  Fg=Wより
 ここに、gは重力加速度、tは時間です。
  


より
   


 同じ重力場であれば、g=gn ですから速度と長さに関係は
   


 また、v=L/t より、時間と長さの関係は
   


 さらに、v=Lf より、周波数と長さの関係は
   


 などが得られます。

(3)コーシー数
 構造物の弾性振動などに使います。支配的な物理法則はニュートンの慣性力とフックの弾性力です。
  e=EL2ε
  i=ρL22
 ここに、Eは弾性係数、εはひずみ、ρは密度です。

   

   


  同じ材料であればρ=ρn、E=En より v=vn となります。v=Lf より
   


が得られます。これはフルード数から求めた振動数と長さの関係式とは異なりますが、結果として何が欲しいのかが大切で、どちらを使うかは高度な工学的判断が必要です。


(4)ストローハル数
 弾性構造物の振動、カルマン渦などに使います。支配的な物理法則はニュートンの慣性およびはね定数です。
 i=mLω2
 e=kL
 ここに、mは質量、ωは振動数、fは固有振動数、kはバネ定数、vは速度です。
    



などがあります。このサイトで用いている生き物に関する諸量も含めて、これらを表にまとめておきましょう。

各物理量の相似則

物 理 量 模  型 備  考
長さ( L=nLn(nの定義) 模型の欄は



として表示
面積(A=L2 n2An
体積(V=L3 V=n3n
体重(W=ρL3 W=n3n
速さ v=
時間 t=
周波数 f=fn/
密度ρ ρ=nρn
筋肉が出せる力(Force) F=n2n
足の裏にかかる圧力1(Pressure) 1=np1n
曲げモーメント(Moment) M=n3n
弾性係数 =nEn
曲げ応力p2=M/Z p2=Mn/Zn
断面係数Z=bh2/6 n=bnhn2/6


4.生き物への適用
 まず、私たちの生活の中で、「時間は我々の生活内容の如何に関わらず、それに関係なく過ぎ去っていく」と思っている人がほとんどではないでしょうか。話を判りやすくするために、議論の足場を相似模型に求めてみましょう。
 動物同士や人間と動物の間に相似則は成り立つのでしょうか。 

(1)物を押したり、引っ張ったりすることにより体が変形しますから、応力と歪の関係に支配されています。
(2)外敵に襲われ急に逃げたりするため、急速に加速する必要から慣性力も重要です。
(3)飛んだり跳ねたり、上下方向の運動も無視できないので、重力の影響も大きく受けます。
(4)体にある一定以上の力が働けば骨折したり、大きな怪我をするなど、弾性体のような挙動を示します。
(5)同じ地球の重力場で生活しています。
(5)動物も人間も同じ進化の過程をたどっています。
(6)同じ太陽の恵みを受けています。

などから考えて、その新陳代謝や生理機能、幾何学的な形状について大雑把に考えれば、相似性があるのではないかと推測できます。それが証拠に、哺乳動物の骨格は形こそ違え、私達の骨格と基本的には相似だからです。
 なお、相似比の数は対応する物理量の数だけあるわけですが、物理変数を多いまま温存しても、いたずらに諸関係を複雑にするばかりなので、影響の少ない要因をうまく捨象することにより現象の本質に迫ることが出来ます。
 目的に応じて、何の相似を重視するかによって相似の形が異なってきます。

@幾何相似
 モデルと実物との対応は、常に一つのスケール比に等しい場合を指します。
A機械相似
 まず、幾何学的相似を前提にして、
・力がゆっくり働く力学(静力学)に関するものは、変形後も幾何相似を保つことが必要です。
・運動力学に関するものは、対応時間に対応点が幾何相似的な動きをすることが必要です。
・動態相似の場合は、対応力が相等しいことが必要です。
B熱的相似
 まず、幾何学的相似を前提にして、
・動きを伴えば運動相似であることが必要です。
・ただし、輻射、対流、伝導、物流による熱移動全てを相似させることは不可能です。その場合は相似則を緩和します。
C化学相似
 まず、幾何学相似でを前提として、
・熱相似の上に、
・動きがあれば機械相似も前提とし、対応濃度さが一定比を持つことを必要とします。

などを考えなければなりません。

 以下に哺乳動物や昆虫に相似則を適用するための前準備をしておきましょう。前記したように哺乳動物は、

@物を押したり、引っ張ったりすることにより体が変形しますから、応力と歪の関係に支配されます。
Aまた、外敵に襲われ急に逃げたりするため、急速に加速する必要から慣性力も重要です。
Bさらに、飛び跳ねたり、上下方向の運動も無視できないので、重力の影響も考えなくてはなりません。

 したがって、ここで支配的な物理法則といえば、次の三つを考えればよいでしょう。

応力による力   Fσ=σL2

重力         g=W

慣性力       i=(W/g)・(L/t2)=(W/g)・(v2/L)

 ここに、σ は応力、L は長さ、W は重さ、 は時間、 は速度、 は重力加速度とします。ここで、パイナンバーは応力と重力による無次元量から1つ、重力と慣性力による無次元量から1つとなり、合計2個になります。
 これらをうまく組み合わせることにより、模型に要求される条件が見えてきます。

coffee break なお、相似則について興味をお持ちの方は「模型実験の理論と応用」、江守一郎、技報堂や「模型からの発想」、江守一郎、ブルーバックスが分かりやすくて良いですよ。