スミレ(閉鎖花)


  スミレは、早春の野に可憐な紫色の花を開きますが、春もたけなわの頃になると、紫色の花とは別に緑白色の未熟児のような花をつけるようになります。
  注意して観察すると、紫の花は花茎が長く伸びて、葉より高く抜き出て開花しますが、緑白色の花は一見つぼみの状態のままで決して開花することなく、花茎も伸びず、葉よりも高く抜き出ることもありません。

 植物の花というのは、開花して受粉するのが普通ですね。つまり、花は「受粉して、結実するために開花する」というわけです。ところが、植物の中には、決して開花することのない花があるのです。植物学上は「閉鎖花」というそうですが、私たちの身近な植物では、スミレがそのいい例なのです。
  スミレの花を何度か見て、何かおかしいなと思われた方もいると思います。かなり鋭い観察力ですよ。

 さて、このスミレですが、開花するほうの花はほとんど結実することはなく、この「閉鎖花」のほうが、もっぱら結実して種族を残す役目を担っています。開花しないままで実になり、種子を作るのです。聖書で言えば、植物界の処女懐胎といったところでしょうか。
 この話、実情は処女懐胎どころではないのです。実は、閉鎖花にも「おしべ」と「めしべ」が備わっていて、硬く閉ざされたつぼみの状態のまま、「めしべ」が同じ花の「おしべ」の花粉で受粉し、そのまま結実して種子を作るのです。つまり、「自花受粉」をしてしまうのです。
  「閉鎖花」をつけるのは、確実に受粉して、結実するためと言われています。この「閉鎖花」は、晩春の頃になると、うなだれていた首を真っ直ぐに伸ばして、実が熟すと勢いよく種子を弾き飛ばします。

 「うーん、どうもよく判らないなあ」とため息が出てきそうですね。どう考えたらよいのでしょうか。
 花というのは、

受    粉 備              考
自花(同花)受粉 閉鎖花、はじめから触れている、おしべかめしべが動くなど
他花(異花)受粉 風媒花 ハンノキ、スギ、マツ、イチョウ、オオバコ、ヨモギなど
虫媒花 ハチ媒花、アリ媒花、アブ媒花、チョウ媒花、ガ媒花、甲虫媒花など
水媒花 海水、陸水、雨水など
鳥媒花 ツバキ、ビワ、ザクロ

 表に示すように、受粉の際の花粉を「自分の花のおしべ」に依存するか、「他の花のおしべ」に依存するかによって、「自花受粉」と「他花受粉」に分かれます。
 「他花受粉」の花はさらに、花粉の運ばれ方によって、「風媒花」、「虫媒花」、「水媒花」、「その他」に分かれます。
 さて、スミレをよく観察すると、花の構造や花粉の性状からは本来「虫媒花」で、「他花受粉」の花であったものと思われます。それが何時の間にか昆虫たちの媒介による受粉を当てにせずに、「自花受粉」するようになり、さらにもっと受粉を確実にするために「閉鎖花」を生ずるようになったと考えられます。
 閉鎖花には、スミレのほかにホトケノザ、ムラサキタンポポ、キツリフネなどがある。
 しかし、「何が引き金になってそうなったのか。何故、自花受粉なのか」など判らないことだらけですね。

 ところで、スミレの名はどこから来たと思いますか。実は大工さんが木材に墨で線や印をつけるときに使う「墨入れ」から付けられたものなのです。
  大工さんが使う「墨入れ」は、糸をピンと張って、直線を引く道具ですが、墨の入ったその入れ物の形が、スミレの花びらに良く似ていることから命名されました。つまり、「墨入れ」が変化して、「スミレ」になったというのが定説です。


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